第31回学術講習会
今回はスポーツ障害関連に詳しい教員の黒澤洋司先生にご講演をいただきました。
黒澤澤先生はバスケット、ゴルフ、サッカー、ラグビー、バレーボール、相撲、駅伝等、幅広いスポーツ領域の障害及びケア、コンディショニングに携わってこられました。臨床の他、大学や本校教員養成科でも講師を務め、後進の育成をされておりました。
今回の講演内容は、スポーツ障害のケガの判断、ケガに対する治療法及び予防法についてです。
本題に入る前に、各種スポーツの競技人口や各スポーツの特異性についてご説明がありました。以下、黒澤先生の講義のポイントを述べていきます。
ケガを判断するには、ケガの原因を追究することが大切です。足趾の動き、関節可動域、アライメント、組織の硬さ、筋膜及び皮膚の形状、身体の水分量、靴のサイズや履き方や歩き方等、多岐にわたって確認する必要があります。靴の履き方次第でACL損傷にもなります。アライメントにおいては、アーチ構造が重要となります。アーチ構造以外に、トラス機構とウィンドラス機構は歩行に大きな役割を果たしており、良く周知されているタオルギャザーのやり方ではアーチの強化にはならない為、アーチをトレーニングするには、足趾を滑らせて引き寄せるショートフットが有効となります。
さらに、不安を解消する為のアドバイスとして、ヨガの実践があります。ヨガは肺活量と呼吸量を向上させ、肥満を解消し、ストレスに対する抵抗力がつき、血糖値の低下、慢性腰痛の改善など様々な効果が期待されます。また、ストレッチも効果的であり、外傷や障害の予防、血行促進、関節可動域の向上、筋肉の協調性、筋緊張の軽減、精神的リラックス、集中力の向上等、施術効果は多岐にわたります。尚、ストレッチはポジショニングや運動前にはダイナミックストレッチ、運動後にはスタティックストレッチ等、幾つかおさえるポイントがあります。マッサージの効果として、血液やリンパの循環を促進による疲労感や老廃物の除去、体温の上昇や筋肉の柔軟性の向上、リラクゼーションがあります。マッサージは、神経系に対しては、比較的弱い刺激においては筋の興奮作用をもたらす為、運動前に実施し、強い刺激では鎮痛、鎮静作用が働く為、運動後に実施します。運動前は早くて浅いマッサージを運動後にはゆっくりと深いマッサージを行うのが効果的です。
マッサージの効果を発揮するための具体的な技術について実演して下さいました。
例えば、シンスプリントの予防に対してマッサージする際、筋肉の縦のラインと横の方向性をともに意識しつつ、圧迫を加えながら指を動かしていくことが大切です。
また、筋膜リリースについての効果についても触れて頂きました。以下、施術効果の要点をまとめると、①筋膜、筋、皮膚の歪みを整える。②筋の柔軟性の獲得 ③筋温の上昇、血流改善 となります。筋膜リリースは、怪我のポイントの判断が判りやすく、施術方向が一定でないといった特徴があります。今回、マッサージする特殊な器具としてIASTM(Instrument Assisted Soft Tissue Mobilization)を用いて筋肉、筋膜、腱、靭帯等の軟部組織の動きを改善させていく手技についてご教示頂きました。
次に足や靴を知ることの大切さについて説明して下さいました。足を知ることは障害の予防の第一歩に繋がります。足の型には、エジプト型、ギリシャ型、スクエア型があります。これは、足幅と足長、指の長さとバランス、甲の高さ、振り(足の傾きの度合い)、踵の大きさに因ります。足の計測においては、足のつま先からボールガース、ウエストガース、インステップガース、ヒールガースと各部位において名称があります。尚、足の傾きにおいては、日本人はあることが多いが、ヨーロッパ人は少ない傾向にあります。靴を知ることは大切であり、各人に合った靴を履いていないとスポーツ障害に繋がります。靴選びのポイントをまとめると、①足と靴の形が合っているか。②足長、足囲、足幅は大丈夫か。③靴の重さ ④指の曲がるポイント⑤足の裏は大丈夫か。⑥踵が守られているか。(フィット感は踵が大切)⑦ローリングはどうか。⑧振りの程度⑨縫い目は均等⑩クッションがあるか。⑪スポーツの特異性を意識しているか。⑫紐の結びは大丈夫か。となります。振りについては、4~8度が普通ですが、曲がり過ぎると外反母趾になる可能性があります。また、靴の紐の結び方においては、アンダーラップとオーバーラップの違いについて説明があり、スポーツ選手はオーバーラップで行うとのことでした。
最後に歩き方を知ることについてご教示頂きました。
歩行のチェックポイントを以下述べますと、①歩く姿勢②一定の歩くスピード③左右の歩幅が同じ④膝とつま先の方向性の一致⑤歩行時の膝の屈伸状態⑥モデル歩きをしているか。⑦踵接地から足趾が地面を離れるまでの軌道がどうなっているか。となります。この他、骨膜にはFiber Protainが必要な為、骨を強化するためにこの摂取が必要であるといった栄養学的側面についてもご説明頂きました。皆さんにはプロテインゼリーのサンプルまでお配り頂きました。
本講演では、スポーツ障害のケア・予防について幅広く、多面的にご講義頂き、講義終了後も多くの質問があり、大盛況のなか終了となりました。聴講生が明日からの臨床に活かせることを願っております。黒澤先生、この度は貴重なご講演どうも有難うございました。
文責 大内晃一